2006年02月24日/ 沖縄の詩誌

1999 創刊号/作品評(4)―宮城信太朗

 宮城信太朗の詩篇「FAMILY TREE」は、10篇の詩がひとつの作品としてまとめられており、創刊号に前半5篇、第2号に後半5篇が掲載されている。ここでは前半の5篇のみを取り上げる。

 「1 超心理 〈電子機器と生物学の共存〉」の〈いつの日か橋の上で/あなたが造ってくれたトンネルの中を/私はあたたかな呼吸を確かに感じながら入った/帰宅したお節介妬きの小さなあなたは/太いコードをつたい静かな休息へとはいった〉という表現からは、私は受精をイメージした。大元のタイトルにつながる〈家族の木が植えられていた〉という句は、一人と一人が出会い、新しい命が生まれることの神秘を表しているように感じた。

 「2 we」では10篇のうちで唯一、〈私達〉でなく〈我々〉と言う。〈我々〉は〈自らの手足を縛りすぎる〉。理性で自らを縛る、人間という存在につきまとう苦しみか。

 「3 θ」は女性言葉で書かれているせいか、母が子に語りかけているイメージを持った。〈社会の一員になるということは 決して/自我を殺すことではないのだから ║/そんなに怖がらなくても大丈夫なの ║〉という言葉が、タイトル「θ(シータ)」の音と呼応しているように思える。無声歯摩擦音であり、英語でいうとthの音で、舌を軽く噛んで息を出す。〈あなた〉は自我の死に瀕しており、舌を噛みたい誘惑に駆られているのかもしれない。そんな危機感に溢れていると感じた。

 〈彼は「そんなのないよ」と/意地悪な笑みをして〉と唐突に切られる「4 彼」は、言いかけの独り言のよう。作品の中の〈私〉の中で世界が完結していて、読者はしばらく傍観者となる。

 珊瑚の産卵が目に浮かぶ「5 おいかけっこ」。珊瑚の幼生やプランクトンなどを、〈〉〈э〉〈〉といった記号で表す発想が自由だ。可愛い。「おいかけっこ」とは、珊瑚の精子と卵子が舞う様子だろうか。〈э あなたの考えた遊びが最高に楽しかった oあなたは天才!〉と、受精の際の感動を、受精する当事者たちの視点(おいかけっこして遊んでいる!)で描くことに成功していると思った。その遊びを考えた〈あなた〉とは、自然の秩序を司る存在、すなわち神と呼ばれるものだろうか。〈みんなの息がいっせいに解き放たれ〉る光景は、「2 we」と対照を成している。

 超現実的な表現や記号の多用で、どれも生半には読ませてくれない。一篇一篇の雰囲気は似ているようだが、描かれる情景はかなり異なり、モンタージュ映像のような作品だと思った。モンタージュの偶発性をどう捉えるかは難しい問題だけれど、この作品は私にとって、伝わってくるところとそうでないところの差が大きかった。読者にとっては偶発的でも、作者にとってはそうではない、そのような境地に近づけばもっと感動が深まる気がした。

 それから細かいことだが、創刊号でも第2号でも目次には「詩篇 FAMILY TREE」としか書かれていないので、そこだけ見ると同じ作品のように見え、一瞬戸惑った。前編・後編であることがわかるようにすると親切かと思った。

 掌編小説「I WAIT FOR HIM AT TOILET」も、男子トイレの個室で便器の上にうずくまる記者志望の〈彼女〉が〈彼〉と出会う、というシュールな作品だ。夢?

※ 「FAMILY TREE」1~5は、この記事でも読めます。作者自身の解説付き。

 宮城信太朗は1985年生まれ。詩集『NEW』(2003)、『NEW LIGHT TREE』(2004)。
http://www.geocities.jp/newlighttree/index.html


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Posted by あゆ at 07:00│Comments(8)
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 作品と作者・読者の関係について、「読者にとっては偶発的でも、作者にとってはそうではない、そのような境地に近づけばもっと感動が深まる気がした」と、この記事で書いた。でも、...
作者と作品(1)【沖縄文学館】at 2006年03月05日 22:01
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この記事へのコメント
はじめまして。屍といいます。
突然で申し訳ないのですが「FAMILY TREE」が凄く気になりました。
他の詩集も気になります。
普通に本屋で売っている物なんでしょうか?
よろしければ教えてください。
Posted by 屍 at 2006年02月25日 04:04
個人の詩集は、書店で見つけるのは困難かと思います。著者購入が一番早いでしょう。ウェブサイトを持っている人には、メールでも連絡できます。
Posted by あゆ at 2006年02月25日 17:28
そうですか。アドバイス有難う御座います。
Posted by 屍 at 2006年02月25日 19:39
トラバありがとうございます。
こちらからもトラバしますね。できるかな?
Posted by 宮城信太朗 at 2006年03月08日 15:33
できない!どうやってやるんだろう!
Posted by 宮城信太朗 at 2006年03月08日 15:35
できた!
Posted by 宮城信太朗 at 2006年03月08日 15:48
おめでとうございます(笑)
Posted by あゆ at 2006年03月08日 15:49
ありがとうございます!(笑)
Posted by 宮城信太朗 at 2006年03月08日 16:20
 
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