2006年02月21日/ 沖縄の詩誌

1999 創刊号/作品評(1)―伊波泰志

 簡単なプロフィールも挟みつつ、同人ごと、企画ごとに感想をアップします。私は詩人ではないので(実は書いたりはしますが、まだ発表していないので)、あくまでも一読者として感じたことを正直に記しました。何度推敲したかわかりませんが、作者の方々にとって生産的な感想かどうかは甚だ不安です。というほどのことを書いているわけでもありませんが。

 詩の感想を書くのはいつも楽しい緊張があってスリリングなのですが、同世代となるとやはり更に緊張しますね。せめてこれからの一連の記事で、「1999」に興味を持って手に取る人も増えて、ほかにも色々な感想が出てきたらいいな、そんな呼び水になれたらなと思っています。それではとりあえず作品へ。

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 伊波泰志の「サヴァイブ」は、〈問うてみても/悪魔ですと名乗る奴なんていないから/疑うしかないんだよ みんな/疑わないやつから殺されていくんだから〉と、社会への不信感をあらわにする。〈人に化けた悪魔が獲物を狙っている〉〈人に化けたモンスターを殴りつける特訓積まなきゃ〉という表現はゲームの世界を思わせる。しかしゲームにありがちな「自分VS敵」という単純な図式には、かろうじてだが陥っていないと感じた。最後の〈袋小路に大量発生する空虚/そこから本物の悪魔がこちらを覗いている/哂っている〉という句に、自己の内面への眼差しが見て取れるからか。つまり、心理的な〈袋小路〉に突き当たって、虚しさが〈大量発生〉するとき、語り手は自分の中の〈本物の悪魔〉を見ている、とも読めるように思えた。ところで〈悪魔〉〈鬼〉〈モンスター〉はそれぞれ別のものを表すのか、それとも禍々しい存在を言い換えただけなのだろうか。「サ〈ヴァ〉イ〈ブ〉」というVの表記の混同が少し気になった。

 〈たぶん俺の前世は/切り離されたトカゲの尻尾〉という冒頭が印象的な伊波「リザード」。〈現世も大概似たようなもんだが/あいにく 人間の体と脳みそ持ち歩いている〉――この「あいにく」は、切り離された犠牲という状況は変わらぬまま、自らの体と意志だけを持ってしまったやるせなさなのか、それとも敵(あるいは本体か)に対する「おあいにくさま」という対抗心か。〈人間の体と脳みそ〉をどう捉えるかで読み方が分かれると思うが、この詩の中では前者のように思えた。〈本体は誰だ/敵って何だ/俺は尻尾のままなのか〉とたたみかけるような言葉のリズムが、切実さを浮き彫りにする。自分を切り離した本体はもう別の尻尾を生やしたのか、という問いの視点や、尻尾の自分が逆に本体を生やしたら・・・・・・などというコペルニクス的転回があればもっと強烈になったのになあ、とも個人的には思った。

 伊波泰志は1981年生まれ。沖国大文芸部2代目部長を務めた。天荒俳句会に所属。合同俳句集『炎帝の仮面』(共著、2000)、詩集『柱のない家』(2002)。
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Posted by あゆ at 07:00│Comments(4)
この記事へのコメント
 こちらでは初めましてですね!とても丁寧な作品評ありがとうございました!
 なかなか同世代の方の評をもらうことがないので、とても参考になります。
 ちなみに「サヴァイブ」の表記の揺れは、私の勘違いが原因であり、正しくは「サヴァイヴ」ですね。何故か頭の中では「survibe」となってました(笑)。
 残りの作品にもどう切り込んでいくのか、楽しみにしています!

 それと、私のブログの方に「沖縄文学館」のリンクを貼りたいと思うのですがいいですか?(付け足しみたいな言い方になってしまってすみません)
Posted by 伊波泰志 at 2006年02月23日 13:37
伊波さん、コメントありがとうございます。いまこのサイトを開いたら、ちょうどのタイミングでびっくりしました。

表記は、作者の考えがあれば正誤の次元とは関係なくなると思うので、「重箱の隅かな・・・」とかなり悩みました。

リンクはもちろん大歓迎です! 
Posted by あゆ at 2006年02月23日 13:47
 早速リンク貼らせていただきました!
 信太朗くんへの詩評は「なるほど」と発見される所があり、面白かったです!
Posted by 伊波泰志 at 2006年02月24日 11:03
リンクありがとうございました。
そうですか! 不安もありましたが書いて良かったです。
何かありましたら、これからもどうぞ遠慮なくコメント下さい。
Posted by あゆ at 2006年02月24日 19:53
 
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