2010年09月08日/ 断想・随筆

ドイツを歩いた日―カフェー

街の中で私の好きな場所はカフェーだった。1人で日記や手紙を書いたり、夜に友達やゲーテの先生と話をしたり、どこの街に行ってもお気に入りのカフェーを見つけた。

ドイツのカフェー(ヨーロッパはどこでもそうなのかな?)は飲み物だけでなく、ある程度のボリュームのある食べ物も出してくれるので、日本でいう小さいレストランのような感じだ。料理は本当に量が多くて、鶏肉をまぶしたサラダだけでも1回分の食事になってしまう。

私があちこちのカフェーに入るたびに注文していたのが、スープだった。量の多さはスープも例外ではなく、ヴルストが入っていたりするともうおいしい夕食になる。ホームステイの契約では朝食のみをもらえることになっていたので、夕食時はよくみんなでカフェーに出かけた。

飲み物で好きだったのが、ハイスミルヒ(ホットミルク)だ。日本ではたまにしか見ないが、ドイツではどこのカフェーにもあった。寒かったせいもあってハイスミルヒの温かさはとても心地よく、飲めば息を吹き返すような幸福感を味わえた。

反対にもう頼むまいと思ったのはホットティーだ。日本にいるときはいつもホットティーばかり頼んでいたので、ドイツでも最初のうちはそうしていた。ところが、どんなにきれいな、かわいい感じのカフェーに行ってもホットティーだけはティーバッグだったのには驚いた。どこに行ってもそうなので、ドイツの人は紅茶には思い入れがないらしいと思ってあきらめた。

ケーキは安くておいしいものが多い。初めは「日本のケーキの方が繊細でおいしいな」と思っていた。しかし何より量が多い(一切れが大きい!)ので、味わうよりもぱくぱく食べるのにいい味だなあと思うようになった。ドイツのケーキ職人にはずいぶん失礼なことを書いているような気がする。

カフェーにはそんなドイツの味がつまっていて、ちょっと寄るたびにどんどんその魅力にとりつかれる。

料理を運んでくれるウェイトレスやウェイターは、必ず客に「Guten Apetit!(グーテン アペティート!/どうぞ召し上がれ!)」と言い、皿を下げるときは「Schmeckt es gut?(シュメックト エス グート?/おいしかったですか?)」ときいてくる。そして「Ja, sehr gut!(ヤー、ゼア グート!/はい、とても!)」と答えると笑顔でうなずいてくれる。そんなやりとりも楽しかった。

カフェーの風景はいくつものニュアンスを持って私の心に収まっている。ドイツで最も人とふれあう場所だったのと同時に、1人でじっとしていた場所でもあった。ドイツ語の海からしばらく上がりたくなって、カフェーで何時間も日記を書いていたこともあった。日本語で文章を書くということがとても新鮮に思えた。

日本の喫茶店とドイツのカフェーは雰囲気が似ているので、今私は日本のどこかの店にいるんだと想像するのは簡単だった。それが可能なのがうれしくも悲しくもあり、複雑な気分になった。そして、ふと手を止めて眼を窓の外にやると、冒頭に書いたような奇妙な感慨が湧いてきたのだ。カフェーは、ドイツに浸ることもドイツを切り離すこともできる不思議な場所だった。■ (つづく)

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今読むと、ホットティーがティーバックだったくらいで文句いうなよとつっこみたくなります。グルメでもないのに! でも、沖縄にはいいカフェがたくさんあるから、つい美味しかったティーを思い出してしまうんですよね。


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Posted by あゆ at 10:00│Comments(0)
 
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